中池見から手筒山

気比神宮のお参りをすませて中池見に向かいます。1月の写真がまだまだ残っていました。

ラムサール効果かしら、駐車場にこんなに車がある・・・
ラムサール効果かしら、駐車場にこんなに車がある・・

前日、福井テレビで、「座タイムリーふくい:どう守る?福井の自然 敦賀・中池見湿地から考える」をぼんやり見ていました。

写真家の浅井槙平さんと宮城県で湿地保護に活躍されている呉地正行さんの対談形式の番組で中池見のラムサール条約登録を契機に自然保護を考えようという趣旨の番組です。

20130113105寡聞にして呉地正行さんを存じ上げませんでしたが、東北大理学部ご出身で「日本雁を保護する会」会長、環境活動で、数々の賞を受賞されている超有名人らしい。

番組の惹句は下記のとおりです。

「去年7月にラムサール条約に登録された敦賀市の中池見湿地。

20130113111ここには、江戸時代に新田開発されて以降、人の営みと自然保護との間でバランスを模索し続けてきた歴史がある。

希少種の集中管理を巡る論争、そして何より、保全に対する市民の関心の低さが自然保護の難しさを象徴している。

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番組では、湿地の保全活動の歴史や現状、直面している課題などを見つめながら、福井の自然を守るためにはどのような視点や仕組みが必要か考える。」

テレビの中で、敦賀の街中でのインタビューで、「中池見は知っているけど、行ったことは無い」という人がいて、驚きました。

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中池見の重要性を知る生態学の専門家、環境保護運動をされている呉地さんや、中池見を護ろうとするNPOの方達のように、環境保護に活躍される人達の動きだけでは、中池見の自然は守れない。

結局は中池見に対する危機を意識して、何かをしなければという世論をまき起さなければいけない、というのが、番組の言いたいところなのだと思います。

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それでは何をすればいいのか・・・その肝心なところに対して、番組は回答を用意できないまま終わった感じがあります。

浅井慎平さんが、それでは中池見をこれからどうして行くのか?

という問いかけに、呉地さんの回答は「先程のような無関心な人達を中池見に行かせることが大事なんです。」と・・・

え〜と、だから、どうすれば興味のない人を中池見に連れていけるかという問いかけだったのではないのか・・・と、ちょっと混乱します。

考えてみれば、福井テレビ、あるいはマスコミの姿勢は環境保護に関しても、「報道」という、客観的立場を守り、環境保護の主体になりうることはないのでしょう。

外来生物のアメリカザリガニを排除しているのだそうです。
外来生物のアメリカザリガニを排除しているのだそうです。

ただ、こう言う番組が関心を呼び込むきっかけになるのは明らかなので、継続的にやって欲しいけど、視聴率的には厳しいでしょうから、露出は少なくならざる得ないのかと。

少し中池見の勉強を・・・

日本生態学会第47回大会自由式シンポジウムの資料に中池見の経緯と中池見の「生物多様性」の説明がありました。

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いくつかの発表を、併せて、引用させていただきます。

「中池見は、かつての日本の低湿地生態系の豊かな自然が残された数少ない場所である。

植物に限っても約25ha(=500m×500m)の中に、1997年に公表された環境庁版植物レッドリストに挙げられた十数種の絶滅危惧種・準絶滅危惧種が生育している。

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中池見は30m〜50mの厚さの泥炭層に覆われており、その上に造られた水田は深い泥地となっているため、農作業には田下駄、田舟が必要であった。

農家は水田の改良に努めてきたが、土壌が軟弱すぎて大規模な基盤整備や水路の改修は行えず、農作業の機械化は進まなかった。

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手筒山に向います

このことが多様な生物相が中池見に維持されてきた一因と考えられている。

米の生産調整が進むと、中池見は耕作条件が悪いことや農家の後継者難などが原因で徐々に放棄が進み、現在は生物の保全を目的に耕作している水田以外は全て耕作放棄水田となっている。

20130113161こうして、耕作放棄後の年数が異なる水田がモザイク状に分布し、放棄後の年数、土湿、維持管理の有無や管理内容などにより、多様な植物群落が見られるようになった。

中池見の水田には、デンジソウ、ミズアオイなどの絶滅危惧種を含む多様な水生・湿生植物が生育している。

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手筒の樹々にはほとんど名札が付けられています。

放棄直後や、植生遷移のコントロールのために田起こしを行っている水田では、耕作田と共通な雑草類が主要な群落構成種となり、稀少種の主要な生育地であり、また種多様生も高い。

植生管理を行わない放棄水田では、大型の多年草が密生する群落の拡大し、現在ではヨシ、マコモなどが繁茂する高茎草本群落が最も広い面積を占め、稀少種の減少や消滅が確認されている。」

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この手筒の狭い範囲に、多様な歴史の横糸が織り込まれています。

「中池見の近隣の「池の河内」と、琵琶湖北西岸の滋賀県マキノ町の湿田・放棄湿田でも、中池見と共通な稀少種の生育が確認されている。」のだそうです。

その中池見は液化天然ガス(LNG)基地問題で揺れました。経緯は概略以下の通りです。

「1992年に、敦賀市議会が大阪ガスの液化天然ガス基地を中池見に誘致。

20130113193大阪ガスは中池見内に環境保全エリアを設けて中池見の希少種と自然を守ることを代償に、液化天然ガス基地建設計画を進めた。

1996年生態学会大会で、生物多様性が桁外れに高いことが明らかにされ、中池見の保全を求める大会決議が挙げられた。

これは生態学会が二次的自然の保全を訴えた初めての決議であった。

手筒の頂上近句で見た中池見
手筒の頂上近句で見た中池見

1999年9月、大阪ガスは将来のガス需要を検討した結果、基地建設計画を10年延期すること、および環境保全エリアの整備は継続して進めることを、発表した。

2002年4月、計画はエネルギー事情の変化を理由に断念。大阪ガスが取得・所有していた土地は2005年にすべてが敦賀市へ寄付され、市有地となった。

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以降、敦賀市や特定非営利活動法人により保全が進められている。」

現在、新幹線のトンネルが中池見の山間地を横切ることになり、トンネル掘削で水脈が変わることにより、湿地が損なわれることを懸念する声が上がっています。

選定ルートは従前の環境影響調査の時の想定ルートより100m〜150m湿地に近いのだそうで、湿地保護の考え方には遠いところで検討が進んだという印象があります。

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テレビで市長さんは「新幹線も、中池見も大事です。」とおっしゃっていましたが、選定ルートの変更はあり得ないと言う態度のようです。どちらも大事なのでは結局利便性を問う声が大きくなるのではないか。

一部機能を失ってもいいではないかという気持ちもあるのかもしれません。

でもその、ごく、一部の部分の機能損失が湿地維持のメカニズムの基礎を崩すことにならないのか・・・

20130113208トンネルによる影響を多くの知識と検討時間を費やして精査しないと将来に負の種を残す可能性があるという気がします。でも、県民の大きな期待を背負って、新幹線工事は進んでいきます。

中池見の後に、手筒に登ります。

手筒から金ヶ崎のお参りをしようと下り始めますが、4時近くになり、駐車場の門限が心配になってきて、引き返しました。

くまじい
阿佐ヶ谷生まれの73歳

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