藤田嗣治の手紙

6月17日(土)千葉県文書館30周年記念歴史講演会「千葉ゆかりの作家としての藤田嗣治-妻とみへの書簡を中心に」に参加。

千葉都市モノレールの県庁行きの終点まで初めて行きました。

最初の妻、とみを日本に置いて、パリに渡った藤田の、とみ宛ての179通の書簡を集めた「藤田嗣治-妻とみへの手紙1913-1916」が、本日の講師の林洋子先生の監修で刊行された。

千葉都市モノレール終点県庁前

藤田は筆まめな人で多くの人に書簡を出していたようであるが、名声を得る前の時期の書簡は残っている例が少なく、無名の藤田の書簡は貴重であること。

また、当時のパリの様子を異国人が語る文書はこれも例は少なく、貴重な資料として、海外からも着目されており、仏訳の要請もあるらしい。

都川、葭川合流点(葭川排水機場前)

とみは藤田と同年、1886年に千葉県市原市に生まれ、女子美術学校を卒業。東金女学校の教員をしていた時に、房総に写生旅行に来た藤田と知り合い、1912年(明治45年、大正元年)結婚に至る。

とみと藤田は東京大久保に新居を構え、いずれ、とみもパリに藤田を追う予定であったが、藤田家およびとみ双方の家庭的な事情から資金難となり、渡欧が難しくなる。

千葉県葭川排水機場、葭川水門

とみは夫の元に出向くための資金を自ら稼ぐため、千葉の実家に帰り、千葉県教育委員会講習所講師として就職。病に倒れ、中断するものの、その後、師範学校教員検定試験に合格し、母校の女子美術学校の教員となる。

しかしながら、欧州で世界第一次大戦が勃発。藤田はパリを逃れ、南仏ドルドーニュ※、ロンドンと移動し、とみのパリ行きの可能性も薄れ、お互いの気持ちが離反していくことになる。

※ドルドーニュはラスコーの壁画がある南仏の渓谷。パリでキュビスムに傾倒した藤田はドルドーニュの環境下で画風を変化させていったのだそうです。

千葉県文書館前

明確な別れを記した書簡はなく、詳細は不明らしいけど、おそらく1916年末に離婚したものと考えられるとのこと。

書簡の他に、中身の無い封筒のみのものも在ったということですから、とみが読むに耐えず、破棄した書簡もあると考えられるようです。

千葉県文書館

二人は籍を入れていなかったため、お互いに別れましょうだけで、終止符が打たれたということなのでしょう。

昨年、DIC川村美術館の「レオナール藤田とモデルたち展」で藤田の女性遍歴に驚きましたが、とみと別れた後に、まさに凧の糸が切れた様に、という感じになるわけですが、とみとの別れの寂寥感を埋めるが如くという言い方が出来るのでしょうか。

講演会場

179通の書簡は市原市のとみの実家に保管されていたが、藤田の4番目の妻、君代(間の2番目と3番目はモデルになっているフランス女性)の存命中(2009年逝去)は刊行が難しかったらしい。

君代は藤田の25歳歳下で、藤田の死後、残された作品、日記などを世に出す功績者であったが、最初の奥さんとの書簡を世に出すことに抵抗があり、承諾がもらえなかったと言うことのようです。

藤田嗣治 1909年5月作品 2009年に発見された絵であるが、とみと知り合ったのが1909年夏であり、とみとは違う女性を描いたか?ということでした。(四国新聞

また、とみが市原の実家に戻ったため、震災や戦災の影響少なく、書簡が保管されてきたと言え、その意味でも貴重な資料であるのだと。

藤田自身は東京牛込に生まれ、妻とみとの生活も東京でスタートしたが、藤田嗣治の父、嗣章(つぐあきら)はもともと、房州長尾藩本田家の家老職の家系であり、藤田の本籍地は、1921年に東京に移すまでは千葉のままであったらしい。

千葉都市モノレール

嗣章は陸軍軍医総監を務め、森鴎外とも知己であり、二人の娘婿も医学の人間を選び、軍医を継いだものもあるという、軍人一家でもあった。

ちょっと、千葉と無理矢理関係づけたきらいはあるけど、面白い話満載であっという間の2時間でした。

とみは美術学校出身ということで、藤田とは芸術家夫婦ということになる。

千葉に関わりのある芸術家夫妻として、布良海岸を描いた「海の幸」の青木繁(1882~1911)とやはり画家の福田たね、高村光太郎(1883~1956)と画家の智恵子がいる、と言う説明をいただきました。

高村光太郎と千葉の縁がどれほどと言うのはよく解りませんでした。また、それぞれの交際があったかどうかは定かではないようです。

青木繁「海の幸」1904一人こちらに顔を向けてるのが福田たね。ブリジストン美術館蔵

ただ、房総の海は多くの芸術家にとって、あたかもフランスのノルマンディの様な存在であり、彼らの恰好の題材を提供する場であったことが言えるということでした。

くまじい
阿佐ヶ谷生まれの73歳

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA